函館の谷地頭温泉

函館市】湯元 谷地頭温泉
■開拓長官黒田清隆の命により、低湿地だった谷地頭が埋め立てられ宅地化したのは明治14年(1881年)。買い手つかずから一転して商家の別荘地となったかいわいには料亭が相次ぎのれんを掲げ、翌年には勝田家が鉱泉付きの料理店を開く。これが谷地頭温泉の事始めだ。
 とはいえ往時は泉温に恵まれず、住民の求めもあって昭和20年代に市が温泉開発に着手。昭和26年(1951年)に見事64度の温泉が噴き上がり、2年後に開業したのが函館市営の旧谷地頭温泉だ。歴史ある公共湯、訪れた方も多いだろう。昔は最も熱い湯船は45度に達し、沈めた足のふくらはぎがキュッと締まるほど熱かった。
 平成25年(2013年)春から民営となった谷地頭温泉。大窓に木々の緑を映すサンルームのように明るい内湯には、おなじみの3槽の大風呂に赤鉄色の源泉がなみなみと。おそるおそる足先を入れれば…「ふぅ」と思わず安堵(あんど)の声が。以前なら低温浴槽さえ42.5度あった内湯が、今は高温43.5度、中温41度、低温の気泡湯は40度ほどに。熱い風呂は湯上がりが爽快で愛好家も多いが、脳卒中心筋梗塞などの血栓症のリスクが高まる。高齢者にはとりわけ危険だ。
 「人が健やかに生きるために温泉はあります。心を尽くして、体に良い湯を調えなくてはなりません」。大正8年(1919年)生まれの同温泉の金沢桃一(ももいち)会長は深くうなずく。「南茅部育ちの私にとって温泉は最高の娯楽と憩いでした。あまり丈夫ではなかったのに今も元気に過ごしているのは、温泉のおかげなのでしょう」。日々欠かさぬ全浴槽の換水と清掃、丁寧な管理で仕上げる絶妙の湯加減。感謝と畏敬の思いを込めて調える湯は「力」が違う。手足を伸ばせば身も心もゆるりとほぐれ、新鮮な湯の力がしみわたる。
露天の湯船は特別史跡五稜郭跡にちなむ星形。掛け流しの湯は女性たちの美肌もつくる。(旅行ジャーナリスト)
住所:函館市谷地頭町20の7
電話:0138・22・8371
泉質:ナトリウム−塩化物泉
日帰り入浴時間:午前6時〜受け付け終了午後9時、午後10時閉館
日帰り入浴料:大人420円、6歳〜12歳未満140円、3歳〜6歳未満70円、3歳未満無料
日帰り入浴定休日:第2、4火曜日
交通:函館市電「谷地頭」電停下車、徒歩5分
(2016.10.31北海道新聞より一部抜粋)