新万能細胞 生物学の常識覆す発見

■新万能細胞 生物学の常識覆す発見 理化学研究所などの研究グループはマウスの細胞に刺激を与えることで、あらゆる細胞に変化する万能細胞の作製に成功した。
 STAP(スタップ)細胞と呼ばれ、同様の機能を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)に比べ、短期間で簡単に作製できるという。
 画期的なのは、これまでの生物学の常識を覆した点にある。
 植物では、刺激を加えることで組織が再生することはよく知られている。例えば木の枝を切って水につけると根が生えるのは、切断という刺激で万能細胞ができるためだ。
 哺乳類で同様の働きが確認されたのは、今回が初めてという。
 研究では、生後1週間のマウスのリンパ球を弱酸性溶液に浸し、培養したところ、数日で万能細胞に変化した。別のマウスに移植すると神経や筋肉などになり、弱い毒素を加える刺激でも同様に作製できた。
 これまで万能細胞を作るには複数の遺伝子を加えたり、受精卵を壊したりする操作が必要だった。
 iPS細胞は目の網膜再生で臨床研究が進んでいるが、がん化の懸念も消えていない。STAP細胞を使うと遺伝子を操作しないため、そうした問題は少ないとされる。
 病気や事故で失った機能を回復する再生医療や、創薬への応用を期待する声が高まるのは当然だろう。
 ただ、どんな刺激を受けると万能細胞になるのか。なぜ大人のマウスでは変化が起きないのか、基本的な仕組みが分かっていない。人間の細胞を使った検証もこれからだ。
 性急な実用化を求めるのではなく、研究チームはそうした疑問の解明にまず力を入れ、安全性を前提に研究を進めてほしい。今後、問題点も含め内容を公表するなど、研究の透明性を高めることも大切だ。
 研究を担ったのは、化学工学から転身した30歳のリーダーを中心とする女性ばかりのチームだ。
 細いガラス管にマウスの細胞を通すと多能性のある細胞ができることに気づき、「何らかの刺激を与えることで万能細胞ができるのではないか」と思いついたそうだ。
 柔軟な発想をベテラン研究者らが支え、成功に導いた。今後の科学研究の体制を考えるうえで参考例になるのではないか。
 残念なのは、こうした基礎研究全体への国の支援が不十分な点だ。応用研究に比べ、基礎研究費の割合も伸び率も主要先進国より低い。
 日本は、iPS技術をはじめ再生医療研究では世界をリードしている。長年にわたる地道な基礎研究の上に成り立っていることを忘れず、さらにバックアップしていきたい。
(2014.1.31北海道新聞より抜粋)