新増?内閣

■何とも痛々しい。先ごろ、政府が発表した大地震の予測地図。激しい揺れに襲われる恐れに応じて、黄から濃い赤へと塗り分けると、タツノオトシゴにも似た列島の口唇(道東)や腹部から下半身(関東、東海、南海)にかけて赤く発熱しているかのよう。
東日本大震災に見舞われたばかりの胸部(東北沿岸)でさえ、なお赤い。色の薄い部位も安心できない。体内のいたるところに切り傷のごとき活断層が走る。
■列島に暮らしてきた人々は、脆弱(ぜいじゃく)で、それでいて豊穣(ほうじょう)なこの“生き物”に抱きとめられ、ときに猛り狂う災害に苦しめられながらも生き抜いてきた。長い歴史の中で地震津波に誘発された福島第1原発事故は空前にして絶後とすべき痛恨事だ。
放射線が血のように赤く見えるなら、胸と腹の中間あたりの“患部”はいまだに流血している。この苦しみを癒やし、再発の不安のない社会を築くことが政治の最優先課題のはず。
■第2次安倍内閣が発足した。「原発の新設をどう考えるかは、これから検討する」(21日記者会見)と原発の新増設に含みをもたせた政権の始動だ。<羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く>は、用心しすぎる愚かさのたとえだが、<羹に懲りずに羹を飲む>のはもっと愚かだろう。■「安」心を「倍」加させるのではなく、減殺した「新増(シンゾウ)」さん。そう歴史に刻まれるのは、安倍晋三さんとて本望ではあるまい。
(2012.12.27北海道新聞の卓上四季)