3億年の記憶

■3億年の記憶あまり大きくは報じられなかったが、今年の技術開発関連で“忘れられない”ニュースがある。それは京大と日立製作所の研究チームが、「3億年たってもデータが消えない」という記憶媒体をつくった、との記事。
▼技術の進歩で半導体や光ディスクの記憶容量はみるみる増えたが、温度や湿度変化に弱く、記憶を保つ年月は長くても100年程度だった。新媒体は耐久性が極めて高い「石英ガラス」にレーザー光で情報を刻み、顕微鏡で読み取るそう。
▼一口に「3億年」といっても、それがどれほどの長い時間なのか、なかなか想像がつかない。そこで、宇宙誕生から現在までの歴史を1冊にまとめた英国のジャーナリスト、クリストファー・ロイドさんの「137億年の物語」(文芸春秋)のページをめくってみる。
▼いまから3億年前。地球の大陸はひとつに集まり始め、陸上の気候は激変した。それまで長く地上を支配していた両生類は内陸部の乾燥に耐えられず、爬虫(はちゅう)類に首座を奪われていった。
▼人類の遠縁にあたる哺乳類の祖先の出現も、この頃という。それから3億年の時を重ねて、生命(人類)は、3億年先の知性に自分たちの記憶を詳細に伝える手段を得た。
▼はたと立ち止まり、思いをはせる。私たちは未来の生命が生存可能な環境を残せるか。この星に「140億年の物語」がつづられる日が訪れてほしい、と。
(2012.12.30北海道新聞の卓上四季より)