「脱原発」どこへいった

「失望の民主 厚顔の自民」文芸評論家 斎藤 美奈子
 野田佳彦政権は「2030年代に原発稼動ゼロ」の方針を盛った。「革新的エネルギー・環境戦略」の閣議決定を見送った。パブリックコメントでも意見聴取会でも討論型世論調査でも、脱原発を望む声は高かった。この党は人を失望させるのが天才的にうまい。
 では、次の総選挙で政権に返り咲く気が満々の自民党はどうか。
 総選挙に出馬した5人の候補者の発言を聞いた限り、脱原発やエネルギー政策の転換は、そもそもこの党の眼中にないらしいことがわかる。
 「30年代に原発稼動ゼロ」の方針は5氏が5氏とも否定した。「夢ばっかり追っても仕方がない」「東電福島第一原発はあのようになったが、東北電力女川原発は無傷だった」とは総裁選で次点になった石破茂氏の発言。新総裁の座を射止めた阿部普三氏の弁は「あまりにも無責任」。
 反省がないとはこのことである。原発を安全といい続け、推進してきたのはどの党なのか。現政権を批判する前に、事故で避難を余儀なくされた16万人に福島県民に詫びるのが筋ではないのか。
 原子力政策に関心の薄い彼らが意欲を燃やすのは、集団的自衛権の行使と改憲である。自民党は4月に「国防軍を保持する」などの条文が入った改憲案をまとめた。それに沿った方針らしい。
 阿部新総裁は「日本の美しい海、領土が侵されようとしている。危機的な状況だ」と総裁選で訴えた。しかし日本の海と国土は、外敵以前に放射能で「侵され」ている。下野している間に、自民党は何が「危機的な状況」かを見極めるセンスも失ったのではないか。
(2012.10.5北海道新聞より一部抜粋)