放射能と喫煙

 放射線の危険性を分かりやすく説明するため、生活習慣の弊害が引き合いに出されることがある。
 年間100ミリシベルトの被ばくで発がん率は0・5%増えるが、これは受動喫煙と同程度だそうだ。喫煙や大量飲酒となると、確率ははるかに高まる。
 だから、「喫煙者が過度に被ばくを恐れるのはおかしな話」という専門家もいる。放射能汚染の不安にさいなまれる人を落ち着かせるのが目的なら、こういう説明も有効だろう。
 だが、しばしばリスクを過小評価する文脈で語られるのには、うんざりさせられる。
 酒やタバコで節度を守らない者は、公共空間から締め出すこともできる。
 原発事故で漏れた放射線を浴びせられる人は、何のメリットもなく、避けようもない。
 病気の原因を探るため被ばくを承知でCT検査を選ぶことはあっても、趣味で受ける人はいない。余分な放射線を浴びるには納得できる理由が必要だ。
 原発推進派の「電気の恩恵を受けるための代価」という主張にはおどろかされる。
 福島の事故の前は、原発は「絶対安全」のはずだった。今になってリスクの許容を迫るのは虫が良すぎないか。
 しかも健康への影響が十分解明されていないリスクだ。
 放射能と生活習慣の比較から導かれる結論は、有害な喫煙や大酒やめるに越したことはないという点に尽きる。酒もタバコも愛好する私も反論のしよがない。
(2011.08.25北海道新聞「今日の話題」より引用)