福島に学んで 脱原発社会へ踏み出そう

 菅直人首相は、原発のない社会を目指す考えを表明したものの、閣内の合意も具体策もなく、反発を受けると、腰砕けになった。
 「菅おろし」の政局も絡み、原発政策の行方はいまだに不透明だ。
 しかし、私たちは福島第1原発事故の過酷な被害を目の当たりにした。故郷を追われた福島県民は数万に上り、広範な地域で住民が放射能という見えない恐怖に脅かされている。
 汚染された環境は復元できないかもしれない。被害は甚大で長期に及び、見積もることさえ不可能だ。
 人間の技術では制御しきれない原子力エネルギーに依存し続けることはもはやできない。
 原発をなくす道筋を真剣に探る時が来ている。
廃炉の工程表早急に】
 電力供給の約3割を占める原発を直ちに全面停止すれば、混乱が予想される。段階的に進めざるを得ない。廃炉の手順を示す工程表を早急に作る必要がある。
 当然、新設はしない。事故を起こした福島第1原発の1号機は運転40年目の老朽機だった。最長40年をルールとし、運転年数30年以上の原発の廃炉の検討から始め、活断層に近いものなどは繰り上げてはどうか。
 代替電源として、自然エネルギーの普及を急ぐ。とりわけ現状で電源の1%にすぎない風力、太陽光、バイオマス、地熱などの育成に全力を注ぎたい。
 首相は、大型水力を含めて総電力の9%になる自然エネルギーの割合を、2020年代の早い時期に20%に高める目標を打ち出した。これを達成すべきだ。
 風力などの電気を電力会社に買い取るよう義務づける再生エネルギー特別措置法案が、実現への第一歩となる。今国会で成立を望む。
【定着させたい省エネ】
 自然エネルギーは世界的な成長産業で、現在は割高なコストも低下していくだろう。政策を総動員して、開発を加速させることが肝心だ。
 これまで先送りされてきた使用済み核燃料の最終処分も、避けて通れない問題だ。
 再処理がもたつく間に、使用済み核燃料は各地の原発敷地内にたまり続けている。
 万年単位の保管が必要な核のごみは処分候補地すらなく、技術も確立されていない。サイクルを放棄すると同時に、最終処分問題の論議を急がねばならない。
 既存電力会社の地域独占体制の見直しも検討課題だ。
 発送電分離は新たな電力事業者の参入を促し、自然エネルギー普及のカギを握る。
 送配電網は公共財だ。国有化も選択肢の一つではないか。
 広まりつつある節電を一時の我慢ではなく、ライフスタイルとして定着させていきたい。生活が変われば、家電製品などの省エネ化も進み、産業界も活気づく。
 「原子力温室効果ガスを排出しないクリーンエネルギー」という言い方は、福島の大惨事の後では何の意味も持たない。結局、温暖化対策の王道も省エネだ。
【北海道こそ先進の地】
 北海道も脱原発自然エネルギーの振興に向けた独自の未来図を描くべきだ。
 北海道電力の発電量のうち泊原発が占める割合は38%と高い。一方、道内の風力発電の潜在能力は全国一とも言われる。
 家畜のふん尿や間伐材を使ったバイオマス、広大な土地を生かした太陽光など自然エネルギーの先進地となる可能性を秘めている。
 分散型の発電設備は、地域活性化にも役立つ。
 泊原発で万一の事態が起きれば、1次産業と観光を振興の軸に据える北海道は立ち直れまい。脱原発の方針は、豊かな自然をアピールする武器ともなるのではないか。
 北電には、自然エネルギーの受け入れに最大限の配慮を求めたい。送電網の強化が必要な場合は、自治体や事業者と費用負担について誠実に話し合う姿勢が求められる。
 脱原発が克服すべき課題は多岐にわたる。省エネや環境ビジネスの起爆剤となり得る半面、技術革新など不確定な要素も前提にしている。
 「脱原発は非現実的」という声は根強い。しかし、破局におびえながら暮らす現実を受け入れるわけにはいかない。原発のない未来は、挑戦しがいのある選択だ。
(2011.07.16北海道新聞より)