原発は麻薬 財政圧迫

原子力政策に異を唱え続けた佐藤栄佐久福島県知事
 「闘う知事」として国の原子力政策に異を唱え続けた佐藤栄佐久福島県知事
(71)。東京電力福島第一原発の事故後から、集会や取材を通じて「起こるべくして起こった人災だ」と、国や東電を厳しく批判している。
■国策破綻事故は人災だ
 国や東電の安全対策に不信感を抱いたのは、知事就任4ヵ月後の1989年1月に起きた福島第2原発3号機の部品脱落事故。一刻を争う情報が東京の「霞が関」経由で届き、さらに炉心に金属片が残っているのに「安全が確認されれば運転を再開する」という地元の感情を無視した東電の姿勢に激怒した。「国も安全対策で主導権をとろうとせず、完全無責任体制だと思い知らされた」という。
 1991年に福島第1原発のお膝元の双葉町議会が7,8号機の増設を決議した際は「ショックを受けた」。原発は建設中や営業運転開始後しばらくならば電源3法交付金や固定資産税などで潤うが、一過性にすぎない。原発関連以外の産業は育たず、不相応なハコモノ建設で後々維持費が自治体財政を圧迫する。
 双葉町は2008年度以降、自主的な財政運営が制限される「早期健全化団体」になった。「原発が地域振興に役立っていない。次々原発を増設しないと財政が行き詰る。麻薬中毒と一緒だ
 2002年に福島県独自の条例で核燃料税を引き上げたのも、自治体の裁量でまちづくりに使える収入を増やす狙いだったが、東電側は「いかなる手段を使ってもつぶす」と猛反発した。
 2006年福島県発注のダム工事をめぐり佐藤前知事の収賄疑惑が浮上。国や東電の原子力政策に歯向かった報復との見方が広がった。
 公判では全面否認で争ったが、一、二審とも有罪(上申中)に。ただし、二審判決は賄賂について「金額はゼロ」と判断。検察側の見立てが、事実上、否定された。
「国の原子力政策も、検察の捜査も、自分たちの方針をごり押ししてくるという点で酷似している。いずれの『国策』も破綻したが、福島県はめちゃくちゃにされた」と嘆く。
原発立地について
 「今の世代は一時的に潤うかもしれないが、20〜30年後はどうか。次世代は恩恵どころか、負の遺産を背負う。つまり、世代間で共生できない。今回の事故でそれが最悪の形で現実のものとなった」と悔しさをにじませる。
 福島県は明治末以降、首都圏に電力を供給し続けてきた。しかし、国の政策転換で火力、原子力が主力になると、水力発電を担ってきた地域は衰退した。
 「北海道も、炭鉱まちが国のエネルギー政策転換で寂れ、行き詰った。原発も、いずれ寿命がくる。今後、増設が望めない中、廃炉後、地元がどうやって自立するのか。今から考えておく必要がある」と指摘する。
 「おいしい道産米」づくりや、観光立国に力を入れてきた北海道。「その努力も原発事故が起きれば、すべて吹っ飛ぶ。原発を推進する通産省(現経産省)出身の高橋はるみ知事が、どこまで国や北電にもの申せるか
(2011.04.24北海道新聞より一部抜粋)